目次
ごきげんよう、和風デザイナーの清水です。
みなさんは日本の夏といえば、何を想像されますか?
スイカ、ラムネ、かき氷、夏祭り、太鼓の音・・・
いろいろな想像が膨らみますね!
今回は、日本の夏を思わせる和風デザインのつくり方をご紹介していきます。
日本ではいつから夏なのか
現在では、7月〜9月くらいまでが夏というイメージが強いですが、古来の日本ではどうだったのでしょうか?
暦の上では、立夏(毎年5月6日頃)から立秋(毎年8月8日頃)までが夏とされています。
日本では月毎に和風月名がついており、5月は皐月、6月水無月、7月は文月、8月は葉月と呼ばれています。
皐月
早苗を植える月といういみの早苗月から皐月になったと言われています。
古来より稲作文化が根付く日本らしい名前ですね。
水無月
水無月と書くと夏だから水がなくなるのかな?と思われがちですが、実は水無月を現代語で表すとみのつきつまり、水の月です
梅雨の時期で水がふんだんにあり、稲作にも重宝した月だったことでしょう
文月
稲の穂が含む月含み月から来た名称だという説があります。
葉月
一説では、葉っぱが紅葉し落ちる季節なので葉月と呼ばれるようになったと言われています。
日本の夏のイメージを知る
日本の夏とはどのようなイメージでしょう?
草木が茂り、涼を求める人々が川に足をつけてみたり、打ち水をしたり・・・
神社に行くとお祭が執り行われていて、太鼓やお囃子の音が聞こえてきて夜になると川沿いで花火が上がる。
このイメージは時代が立ってから江戸時代以降の日本のイメージです。
このように時代ごとで連想するものが違ってくるので、和風デザインも時代ごとに違ったデザインになってきます。そのことについては「和風デザインのコツ企画から制作」で紹介しています。
まずは、時代ごとの夏のイメージを紐解いて行くことで日本的なデザインを再現できます。
例)かき氷をモチーフとしたデザイン
例えば、かき氷をモチーフとしたデザインをつくりたいとします。
かき氷のルーツをさかのぼると平安時代までたどります。
かき氷はもともと『削り氷』と呼ばれる貴族など高貴な人が夏に楽しむ菓子でした。
削り氷は枕草子にも登場し当時貴族階級の人気スイーツだった事が考察されます。
江戸時代までは貴族や徳川将軍家など特権階級のみ口にしていましたが明治に入り『製氷機が開発』によって庶民の口に出来るようになりました。
平安時代以前を意識したデザインにかき氷が出てくる、明治時代以前に庶民がかき氷を食べてるデザインは不自然なものです
高級なかき氷をモチーフにするなら平安貴族などをモチーフにする、庶民的なかき氷をモチーフにするなら大正ロマンなデザインなどが相性がいいです。
日本の夏を連想させる配色
襲色目(かさねいろめ)
平安時代の女性の貴族の伝統衣装『十二単』
十二単は季節に応じてさまざな色のうちきを重ねます。
それは「襲色目」と呼ばれ、春夏秋冬パターンがあります。
平安時代の女性の貴族は、かさね色目をもった衣装を何枚も重ね着してそで、すそ、えりなどに5色以上のグラデーションを作り出しました。
このように日本伝統色の配色には、日本独自の美意識が集約されているといってもいいでしょう。
今回は、襲色目の夏のパターンをご紹介します
夏らしい襲色目 – 緑の配色
淡萌黄(うすもえぎ)
#93ca76
淡萌黄
#32540a
この配色は、蓬(よもぎ)と呼ばれています。
夏の青々と茂る蓬を連想した配色です。
淡萌黄(うすもえぎ)
#93ca76
薄紅梅
#f2a0a1
この配色は、杜若(かきつばた)と呼ばれています。杜若は5月から6月にかけて咲く花でみずみずしい葉と花を表現しています。
萌黄(もえぎ)
#86B81B
菜種
#debd28
この配色は、菖蒲重(しょうぶがさね】)と呼ばれています。
若い菖蒲の葉の色を表現しています
萌黄(もえぎ)
#86B81B
紅梅
#f2a0a1
この配色は、破菖蒲と呼ばれています。
夏らしい襲色目 – 青の配色
白(しろ)
#faf8f1
中青(なかあお)
#2d5434
この配色は、卯花(うのはな)と呼ばれています。
初夏に白い花をつける卯花とその葉っぱを連想した配色です
薄青(うすあお)
#29905e
薄紫(うすむらさき)
#874da1
この配色は、葵(あおい)と呼ばれています。
葵は初夏に大輪の花をつける花でいおの葵の花と葉を連想した配色です
薄色(うすいろ)
#ceb4b9
中青(なかあお)
#2d5434
この配色は、楝(おうち)と呼ばれています。
枝先に淡い紫色の花がいくつも咲く『楝』燻すと香木のように香り立ちます
淡紅(あわくれない)
#b15c65
中青(なかあお)
#2d5434
この配色は、若菖蒲(わかしょうぶ)と呼ばれています。
新しく咲いた菖蒲を連想させる色で薄い花の色と青々とした歯の色を表現しています。
中青(なかあお)
#2d5434
濃紅梅(こきこうばい)
#401726
この配色は、菖蒲(しょうぶ)と呼ばれています。
古の日本の夏は疫病が流行りました。菖蒲は古くから、邪気を払うものと言われており、疫病から身を守る意味も込められたのでしょう
薄青(うすあお)
#29905e
黄色(きいろ)
#ffd878
この配色は、苗色(なえいろ)と呼ばれています。
日本の爽やかな夏らしい配色ですね
檜皮色(ひはだいろ)
#7b4334
中青(なかあお)
#2d5434
この配色は、蝉の羽(せみのは)と呼ばれています。
平安時代に作られた配色で蝉の透明な羽に映る葉の緑や木の色を連想したのでしょう
中青(なかあお)
#2d5434
濃紫(こきむらさき)
#39254B
この配色は、夏萩(なつはぎ)と呼ばれています。
萩は花を咲かす植物で葉から小さく若い紫がひょっこり出てきた様を想像して作られたと考えられてます
中青(なかあお)
#2d5434
朽葉色(くちばいろ)
#917347
この配色は、花橘(はなたちばな)と呼ばれています。
初夏に香り立つ橘の花と青葉を連想させる配色です
夏らしい襲色目 – 赤の配色
紅(くれない)
#a44359
淡紫(うすむらさき)
#794e9d
この配色は、撫子(なでしこ)と呼ばれています。
撫子は春から秋まで花を楽しむ事ができます。その可憐な花は、美人に例えられ『大和撫子』などという言葉まであります。
紅(くれない)
#a44359
紫(むらさき)
#72116D
この配色は、薔薇(しやうび)と呼ばれています。
日本原産の薔薇とはちがいしやうびは中国から入ってきた薔薇で非常に派手な花です。
赤(あか)
#ba2636
朽葉色(くちばいろ)
#917347
この配色は、百合(ゆり)と呼ばれています。
山百合をモチーフにした配色で白い百合ではなく、赤い百合を表現しているのが太陽を感じさせて夏らしいですね
夏らしい和配色
日本の夏の色とはどんな色なのでしょうか?
木漏れ日の中で木々や草種が匂い立ち、ひまわりが咲き誇る、夜の川辺では絢爛な花火が打ち上がり大きな音と火薬の匂いがあたりに立ち込める。
この情景の中でもさまざまな色があります。
木漏れ日の暖かい光の色、植物の緑、黄色のひまわり、漆黒の夜にカラフルな花火の色・・・
さまざまな想像を駆り立てる日本の色をデザインで使いやすい配色にしてまとめました。
青の配色-涼しげで苔むした夏のイメージ
紺色(こんいろ)
#223a70
緋(あけ)色
#ba2636
紺碧(こんぺき)
#007bbb
青丹(あおに)
#99ab4e
苔色(こけいろ)
#69821b
水色の配色-日本の海と砂浜のイメージ
薄花色(うすはないろ)
#698aab
水色(みずいろ)
#bce2e8
空色(そらいろ)
#a0d8ef
深支子(こきくちなし)
#eb9b6f
たまご色
#fcd575
緑の配色-夏の爽やかな草原のイメージ
松葉色(まつばいろ)
#839b5c
薄萌黄(うすもえぎ)
#badcad
薄緑(うすみどり)
#69b076
柳色(やなぎいろ)
#a8c97f
柳染(やなぎぞめ)
#93b881
赤の配色-猛暑日の森のイメージ
青藤色(あおふじ)
#84a2d4
羊羹色(ようかんいろ)
#383c3c
花緑青(はなろくしょう)
#00a381
丹色(にいろ)
#e45e32
緋色(ひいろ)
#d3381c
黄色の配色-ひまわりのイメージ
灰茶(はいちゃ)
#98623c
菜の花色(なのはいろ)
#ffec47
山吹色(やまぶきいろ)
#F7B500
渋紙色(しぶがみいろ)
#946243
金茶(きんちゃ)
#f39800
日本の夏を感じる和柄
青海波模様(せいがいはもよう)
青海波模様は、奈良時代に古代ペルシャからシルクロードを通って日本に入ってきて日本流にアレンジされたものとされています。
広大な海と波模様に、永遠に続く幸せと平和という意味が込められた和柄です。
鱗模様(うろこもよう)
鱗模様は、鱗をモチーフに二等辺三角形を規則正しく上下左右に連続して組み合わせた模様です。
その歴史は古く日本の遺跡で壁画として発見されたり、土器の装飾で見つかっています。
蛇や魚の鱗を連想させる柄であることから脱皮して再生し厄を払ったり、生まれ変わりを意味します。
麻の葉模様(あさのはもよう)
麻の葉模様は、平安時代に入ってきた模様で平安時代には仏教の装飾などに使われていました。麻の葉によく似ている柄なので麻の葉模様として今日でも親しまれています。
日本の先人は、麻の葉は成長が早く真っすぐに成長する様子を見て、子供の健やかな成長の願いを込めて使う柄でもあります。
3つの和柄の夏を感じさせる共通点
青海波模様、鱗模様、麻の葉模様の3つの共通点はすべて厄をはらったり、幸せを願うという点です。
日本の夏には非常に疫病が流行りました。そのため、夏には全国の神社などで夏の大祓という神事が行われるほどです。
このように日本の先人たちは色や柄にも思いや願いを込めていました。
このような思いや願いを継承しながら和風デザインを行うと日本らしいデザインを行うことができます。
空間を意識して日本の夏を表現する
日本特有の余白感を和風デザインに利用する
例えば、襖絵や浮世絵などの日本画に見られる大胆な構図や余白。
極端なアシンメトリー配置から成る大きな空間は余韻を感じさせて、感情に訴えかける効果があります。
このような構図から生まれる余白は日本独自のものではないでしょうか。
千利休が狭い茶室はいい例です
デザインから見る千利休の狭い茶室の視覚効果
千利休の作った茶室は狭く、特に入り口は立ったまま茶室に入ることが出来ないほどだったそうです。
低い姿勢から茶室の中を見た時、鐘の音、美しい床の間、湯気の立つ茶釜、小窓から見える庭園などそこには至高を凝らした非日常の空間が広がっています。
また、低い位置から茶室を見ると実際より天井が高く、奥行きが広く感じる視覚効果もあります。
夏らしい余白とカーニング
余白やカーニングの使い方で日本らしい夏を表現する事が可能です。
コンテンツを詰める、詰めない、どれくらいの幅を持たせるかという工夫も季節感の効果が出来てきます。
夏をモチーフにしたデザインを行う場合は、一例として少しカーニングを詰めて余白に対してランダムにコンテンツを配置すると楽しい感じの夏を表現できます。
夏の和風デザインは、日本の夏を想像するところから始める
長くなりましたが、まとめです。
夏に関わらず、和風デザインを行うときは歴史と背景を想像する所から始めます。
例えば、庶民的なかき氷を売る時の和風デザインを提案する時は大正ロマンがよく合います。これは日本では、庶民がかき氷を口出来たのは明治以降でそれ以前の時代のモチーフを使うと時代とデザインの整合性が取れなくなります。
このように、色、柄、余白などにも時代に合わせたものを選択する事で質のいい和のデザインが完成します。